koujinkai-ism
  医療提供体制の
抜本改革

PART 1



21世紀の我が国に
求められる医療制度


戻る

PART   U

制度化のための経済的試算

国民医療費は 1995 年度 26 兆 9577 億 円に達しており、毎年約 1 兆円のぺースで増大している。本試案では国民医療費を 96 年度
推計 28 兆円として各試 算を行った。
医療の提供は [専門医療」と「健康管理」の 2 つに大別され、各々に対応する保険が用意されることになるが、「専門医療 」 「健康管理 」
各々にかかわる医療費の推計は厚生省資料「診療種類別国民医療費・構成割合の年次推移」 を参考にし、入院外医療費・一般診療所分
を基に「健康管理」医療機関 にかかわる費用を推計し、これを国民医療費から差し引いた金額を「専門」 医療機関にかかわる医療費とした。
こうして推計した国民医療費の内訳を 下表に示した。

医療費負担の内訳

医療費の負担については、国民、 国・地方自治体、事業主、いずれの立場においても現行の負担額を超えないように振り分けた。
ここで PART Tに掲載した図をもう一度 見ていただきたいが (医療提供体制の抜本的改革 PART T 図1参照 ) 、本試案による医療保険制度では、基礎部分の「健康管理保険」は 国・地方自治体や事業主による保険料負担がないこと、また国民は「健康管理」医療機関窓口での「自己負担」がないことに注目していただきたい。これはPART Tですでに述べたように、各世帯 の支払う「健康管理保険料」がほとんどそのまま契約先の「健康管理 」 医療機関の診療報酬となることによって、患者と医師の関係を第三者が
介入することのない、より直接的で、対等のパートナーシップへと導くことを目的とした結果である。
そこで、従来からの国保、被用者保険の仕組みを準用することとした「専門医療保険」の保険料については、国・地方自治体と事業主の負担割合を7 割とし、国民の負担割合を 3 割とした。ただし、国民が契約先の「健康管理」 医療機関の紹介によって「専門」医療機関を受診した場合、かかった医療費の 2 割、すなわち現行の被用者保険 における割合を準用し、自己負担することとした。
上記の割合で保険料負担額を試算すると、国・地方自治体と事業主の負担額は下表に示す通り 9 兆 3800 億円 となる。
なお、本試案は老人保健制度とこれへの各保険者からの拠出金制度の廃止を前提としているが、「専門医療」については、下表に示すように、高齢者医療公費負担分として 2 兆 6000 億円を計上した。この金額は 95 年度の老人保健制度に対する公費負担の
額と同額である。
また、 95 年度医療費の老人保健を含む国庫・地方負担 と事業主による保険料負担を合わせると 13 兆円となるが、下表の金額を合わせた数字はこれを下回っている。

世帯・ 1 人当たりの保険料

それでは、国民各世帯及び 1 人当たりの保険料はいくらになるのだろうか。
保険料の試算は、総務庁統計局編「日本の統計 1997」 を基に、単独世帯増加の傾向を加味して世帯数 4400万、1世帯当たり平均 2.82人として行った。
「健康管理保険 」 で国民が負担する保険料は、

 6兆4000億円÷ 4400 万世帯≒ 14万 5455 円 / 年
                    ≒ 1万 2121 円 / 月
                    1人当たり 4300 円 / 月

「専門医療保険」 については、現行の国保、被用者保険を準用することとなるので、保険料の負担額は年齢や収入によって少なからず差が生じることになるが、ここでは一律に保険料を負担したとしていくらになるかを求めてみる :

 4兆200億円÷ 4400万世帯≒ 9万 1364 円 / 年
                  ≒ 7614 円 / 月
                  1人当たり 2700 円 / 月

従って、医療保険全体の負担は平均 で1世帯当たり年 23 万 6820 円となり、これは国民健康保険組合の 94 年度 1 世帯当たりの金額(24 万 6518 円 ) を下回っている。
また、一人当たりの保健料は平均で年 8 万 3980 円となり、 95年度の政府管掌健康保険 1 人当たり保険料被保険者負担分 (14 万 2975 円 ) や94 年度国民健康保険組合被保険者 1 人当たり額 (10 万 1615 円 ) を下回っている。
なお、公費負担医療給付については、 厚生省による 95 年度推計額 (1兆2953億円 ) を基に、総額 1兆3000 億円とし、1000 億を「健康管理」分、残り 1 兆 2000 億を「専門医療」分として振り分 けた。低所得世帯数については、厚生省「社会福祉行政業務報告」によると95 年度生活保護・被保護実世帯数は1 カ月平均 60 万 980 世帯であり、また 厚生省保険局「国民健康保険実態調査報告」による国保の低所得世帯に対する保険料あるいは保健税軽減措置の実施状況を見ると 94 年度の対象世帯数は 444 万世帯で、あった。

「 健康管理」 医癒機関数の推計

医療の提供サイドを見た場合、医療機関がどのくらいの比率で「専門」医療機関あるいは「健康管理」 医療機関を選択するかは、国民にとっても、医療関係者にとっても、最大の関心事となるはずである。すでにPART Tで述べたように、本試案は医療機関の数についても、第三者の調整によることなく市場原理に委ねることとし、国民のニーズがこれを決める仕組みとしているが、さまざまな医療機関の成り立ちと 制度上規定される「専門 」 「健康管理」 それぞれの医療機関の適性を踏まえ、その数を推計してみたい。
「健康管理 」 医療機関のあり方やその診療報酬 の規模、性格を考えると、病院が「健康管理」医療機関を選択する可能性は極めて低い。
一方、一般診療所に目を向けてみると、産婦人科、産科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、放射線科など、標榜されている診療科目自体の性質上、すでに高度な専門性が前提とされているような診療科目の診療所や、内科・外科を主な診療科目として標榜している診療所のうち、高度な 専門性と技術力を持つと自負する診療所は [ 専門 」医療機関を選択する可能性が高いと考えられる。そこで、厚生省「医師・歯科医師・薬剤師調査」の 中の診療科目別医師数のデータや診療科目別レセプト平均点数とこれを基準とした場合の医療機関数の分布などを参考に、一般診療所のうち、 70% が 「健康管理」医療機関として届け出ると推定した。
95 年度の一般診療所数は 8 万 7069 で あり、毎年増加傾向が続いている。試算では一般診療所数を 8 万 8000 とし、その 7 割が「健康管理 」医療機関を選択するとして、「健康管理」医療機関数は 8 万 8000 × 0.7= 6 万 1600 となる。
そこで 1 「健康管理」医療機関当たりの担当世帯数 ( 平均 ) を求めると
  4400 万世帯÷ 6 万 1600 ≒ 714 世帯
1 つの「健康管理 」 医療機関当たりの平均担当世帯数は 714 世帯となる。
また、 1 つの「健康管理 」医療機関 当たりの担当人数 ( 平均 ) は、 714X 2.82=2013 人となる。
次に、 1 つの「健康管理 」 医療機関の 保険収入を求めてみる。「健康管理保険」の 1 人当たり保険料が 4300 円で、これより徴収事務費などを差し引いた 約 4000 円が契約先の医療機関に毎月 支払われるとすると
   4000 円× 2013 人 =805 万 2000 円
毎月 800 万円余りの収入となる。ちな みに 95 年 6 月 1 カ月間の無床診療所の保険診療収入の平均は全体で 771 万8000 円、個人立では 627 万 2000 円である。

まとめ

本試案による医療提供体制再編に伴う医療保険制度見直しの最大のポイントは、最終的な目標として、保険者を一本化することにある。
96年3月末現在、健康保険組合は 1819 、各種共済組合が 82 、国保組合は 166 を数え、市町村を加えると国保の保険者数は 3415 となる。
そして現行の全保険者を合わせて 5000 億円の 医療事務費を使っており、明らかに非効率であり、合理化の対象とすべきである。
一方、本試案による医療保険制度 の基礎部分となる「健康管理保険 」 においては、保険者を都道府県単位とし、保険料は世帯の人頭数に応じた 金額を徴収し、診療報酬の支払いは 世帯・月単位の定額払いとなってい る。
従って、徴収事務は大幅に簡素化され 、レセプト審査は不要となる。
審査は原則出来高払い制の「専門医療」についてのみ残ることとなる。
これにより、保険者にかかわる大幅 な事務費の削減が見込まれる。
昨今の医療制度改革論議では、医療機関に対する保険者機能の強化と いう点ばかりが強調され、保険者自身が医療費削減のため取り組むべき 自己改革の課題が議論の対象となることはまれである。
これでは公平さ に欠けると言わざるを得ない。

医療保険の基礎部分である「健康管理保険 」 の保険料総額は、世帯数及 び世帯内人頭数によって変化するが、わが国の将来人口は少子化により大きな伸びは見込まれず、厚生省の 97 年 1 月推計によればわが 国の人口は 2007 年に 1 億 2778 万人でピークに達し、以後は減少の一 途をたどる。
従って、人口増による「健康管理保険」の保険料総額の増加はあり得ない。

「健康管理」医療機関の診療報酬定額払い制により、検査、薬剤費の抑制効果が見込まれる。

「健康管理 」 医療機関数は、「健康管理保険 」 の保険料総額の増減に何ら関連しない。
従って、「健康管理」医療機関を選択した医師個人または医療法人にとって市場原理の導入を余儀なくされるが、一方、第三者が介入して医師数や医療機関数を調整する必要はなくなる。

国民が国民医療の基礎部分である 「健康管理 」 のより高い水準を望む場合のみ、「健康管理保険」の保険料総額が増大する可能性がある。

「専門医療」 については、「健康管理」医療機関から「専門」医療機関への紹介制であることにより、国民はより迅速かつ的確な専門医療の提供を受 けることができるようになり、「はしご 」 受診は解消される。これは医療資源の効率的な運用につながる。

「専門医療」にかかわる医療費については、医学の進歩と医療技術の高度化による増大が見込まれることは事実である。
この場合の対応策は、 新しい技術を保険適用とした場合、 従来より保険適用となっていた技術科の点数を逓減することが考えられる。
ただし、この場合、専門職群の 技術料を的確に評価する診療報酬体系が確立されていることが前提となる。

結び

わが国が諸外国にも例のない少子・ 高齢化社会に突入しようとしている今、医療費をはじめとして、増え続ける社会保障関係費の問題を棚上げにして国の未来を語ることはできない。
少子・高齢化による生産年齢人口の減少は、保険料収入や国・地方自治体の歳入を減らし、この結果、国民医療の財源も圧迫を受けることは必定である。
従って、より効率の高い医療費投入のための医療提供体制確立についての議論は避けて通れない問題である。
ただ、この議論から生まれる結論は国民、行政、医療機関のいずれもが納得し、同意し、理解することが大前提となる。
この立場に立って医療の現場から、議論の一つのたたき台として本試案を提示した。
多くの方々のご意見、ご批判をお待ちしたい。



 戻る
Copyright (C) 2004 Medical Juridical Person KOUJINKAI.. All Rights Reserve