koujinkai-ism


医療提供体制の
抜本改革

PART 2



21世紀の我が国に
求められる医療制度


戻る


PART  T

骨子

1.各医療機関は、その適性を踏まえ、「健康管理」医療機関か「専門」医療機関かのいずれかを選択する。

2.世帯を1単位とし、世帯主は世帯員全員の健康管理、慢性疾患の医学的管理などを行うものとして1つの「健康管理」  医療機関を選択し契約を交わす。

3.各世帯は「健康管理保険」に加入し、世帯主が世帯の人頭数に応じた保険料を支払う。

4.医療保険制度は、「健康管理保険」を基礎部分とし、「専門医療保険」がその上に乗る二層構造の保険制度とする。

5.「健康管理」医療機関の診療報酬は世帯単位の人頭数に応じた定額払い制とする。

6.「専門」医療機関は完全紹介制とし、「健康管理」医療機関からの紹介により診療を行う。

7.「専門」医療機関の診療報酬は原則出来高払い制とし、専門職群の技術評価に基づく支払い体系とする。


はじめに

1997年10月に健康保険法の一部が変わり、ひたすら国民により重い負担を強いる方向で医療改革が始まった。
現在、わが国の社会保障制度そのものの改革をめぐる議論もかつてない広がりをもって沸き起こっているが、
なかでも医療については差し迫った問題として、様々な改革案が各方面より噴出している。
ただ、これらのほとんどは国民の生命や健康の問題を二の次にした財政主導型の改革案であり、さらにこれらの案の一番の問題点は、医療を単なる ”モノ ”として取り扱っている点である。
それぞれの改革案の提案者は、現実に自分や自分の身内が重い病に罹った場合、果たして自分たちの案に基づいた医療に全幅の信頼をおくことができるのであろうか。
ところで、最近の医療改革論議のもう―つの特徴は、肝心の医療現場からの声がほとんど聞こえてこないという点である。
国民と国民医療について議論する医師や医師会の姿勢に問題もあるのだろうが、医師が善意に基づいて国民医療の在り方について何事かを語ろうとしても素直に受けとめてもらえない風潮が存することも事実である。
本試案は、医療の現場で様々な患者さんやその家族と接しながら、国民にも、医療関係者にも、また行政にとっても望ましい将来像を求めて思案した結果であり、わが国の現在までの医療制度の上で成立し、かつ実態に従ったものといえる。
本試案を考えるにあたり、留意したのは次の3点である。

@わが国が世界に誇れる国民皆保険制度や医療機関へのフリーアクセスをはじめ、数多くの利点を持つ現行の医療保険制度や 医療提供体制を最大限尊重すること。

A人口の急激な高齢化に伴い増加が見込まれる医療費を今後も現行水準で維持すること。

B医療機関の機能分担と情報公開を推進し医療提供に市場原理を導入すること。

改革論議では " 改革 " を云々するあまり、現行制度の持つ数多くの長所が視界から消えてしまうという危険性がある。
そこで本試案では、現行制度の欠点をあげつらうことによるのではなく、現行制度の良い面を最大限尊重することを基本にしながら、国家財政の逼迫や少子・高齢化社会の到来という現実を踏まえて医療提供体制を再構築してみようというスタンスをとった。
そこで、人口の高齢化が進む中で、国民医療費の総枠を現状の水準にとどめ、かつ国民医療(の中身)の水準を維持、向上させようとすれば、医療の提供に市場原理を導入することが最善の方法であるとの考えに至った。
そして市場原理導入にあたっては、医療提供側が、提供しようとする医療行為の選択について最大限の自由裁量権を持つこと、国民にとっては自由に医療機関を選択できることが前提となる。
また、両者の間に対等のパートナーとしての関係をつくり出すには、情報公開を推進することが不可欠である。
こうして国民の医療に対するかかわり方は、より意識的、自覚的となろうし、診療サイドから見れば、第三者が財政的な理由によって医療そのものに介入して様々な制約を加えるということがなくなり、医師は professional freedom を侵されることなく診療に臨むことができる。
「医療」を接点に、当事者である医師と患者が直接向き合うことこそが、医療のあるべき姿というものであろう。

本試案のポイント

それでは、具体的にどのように医療提供体制を再構築しようとしているかを見ていくことにしよう。
その骨子は下記の通りであり、提供体制を図で表すと(図1)のようになる。


「健康管理」医療機関

本試案による医療提供体制の要となるのは、特定機能病院、救命救急センター、地域医療支援病院を除く各医療機関(病院、診療所を問わず)が、それぞれの適性を鑑みて、「健康管理」医療機関か、「専門」医療機関かのいずれかを選択するというものである。
「健康管理」医療機関とは、国民各世帯単位の健康管理、慢性疾患の医学的管理をはじめ、健康維持、増進についての助言、啓発活動などを行う医療機関であって、各世帯の世帯主との契約に基づいて上記のサービスを提供する。
そして自院で対応できない疾患にっいては責任を持って「専門」医療機関への紹介を行い、その他福祉サーピスへの紹介なども行う。
―方、各位帯は世帯員全員に対して定期的、継続的に健康管理や慢性疾患の医学的管理などを行う医療機関として1つの「健康管理」医療機関を選択し、世帯主が当該医療機関と契約を交わすことになるが、世帯主は世帯員の同意の下に、月単位で契約する「健康管理」医療機関を変更することができる。

「健康管理」医療機関の意義

従来の医療保険制度も診療報酬体系も急性期医療を中心に構築され、もちろんそれなりに大きな成果を上げてきた。
ただし急性期を脱した後のケアについては十分な配慮がなされてきたとはいえず、「治療(cure)」後のケア(care)が十分に行われないために多くの「寝たきり」が生じることとなった。
長寿化により、老後の生活の質をいかにできるだけ若年時代に近い水準で維持していくかが課題となっているが、「健康管理」 医療機関の創設はこれに応えようとするものである。
また、現行のシステムの下では、患者サイドからすれば症状が出てから医療機関にかかるという形となり、症状の出ない早期癌や肝臓の病気などへの対応は遅れがちとなる。
この点についても「健康管理」医療機関は、いわゆる生活習貫病などが将来的に重篤な病状に陥ることを予ら回避しようとする役割を果たすものであって、病気の重篤化を予防することは、医療費増加の最大の要因となっている「長期入院」や「外科的侵襲度の高い手術」を減らすことにつながる。
つまり、人口の高齢化と疾病構造の変化に対応した医療提供体制の礎が「健康管理『医療機関である。

なぜ世帯単位なのか?

健康管理としての「保健」と医学的管理としての「医療」を―体化させ、長期的かつ定期的に、また特定の臓器や疾患のみを対象とせず全人的に診療を行うことが、これからの少子・高齢化社会のあらゆる年代層において必要である。
長足の進歩を遂げた医療が、―時的、局所的に個々の患者に対し治療を行ってきたのとは異なり、疾思の背景や疾患の予後に対しても幅広い対応が求められる。
癌、肝炎、慢性胃炎、糖尿病、高指血症など、世帯環境や家族性を持つ疾患の管理はいうに及ばず、今後急増していくであろう高齢者介護や臓器移植にかかわる脳死判定の問題にしても、家族要因は極めて重要なものである。
患者さんが帰属する家庭、学校や職場、地域、文化、歴史といった重層的な関係性の中に患者さんを位置づけ、患者さん自身をその全体性において理解しようとする、いわゆる文脈医療の実践こそ「健康管理『医療機関には求められ、このためには契約対象を個人ではなく、「世帯」とすることが望ましい。
また、世帯単位の契約としたもう―つの理由は、求心方を失いつつある「家族」の絆をもう一度見つめ直そうとの思いもある。
健康や生命、老後、病気、そして誰でもいつかは必ず迎える死や死に方の問題を家族全体で考え話し合う場を持つことは、少子・高齢化社会では特に大切なことであると本試案は考えている。
「家庭医」や「かかりつけ医」との違いそれでは、なぜ「家庭医」という名称を採用しなかったのか?
すでに述べたように、本試案の基本は医療提供に市場原理を導入することにある。
当事者(この場合、国民と医療機関)以外の第三者が計画的に各家庭に医者を割り振るといった制度は、本試案の考え方からは最も遠いものである。
本試案では「健康管理」医療機関数も「専門」医療機関数も医師数も、第三者による調整はなしとし、もっぱら国民のニーズにこれらの調整をゆだねることとする。
また、「かかりつけ医」という呼称を用いなかったのは、「健康管理」医が自ら提供しようとする医療行為の範囲について、医師の持つ自由裁量権を最大限認めたいと考えたからである。
今日の改革論議において「かかりつけ医」は医療提供体制全体の ”末端”へ位置づけられ、カゼや軽いケガの治療などカネと手間のかからない医療や、いわゆる出前医療のみ行えばよいとする考え方が見え隠れしている。
しかしながら、こういった捉え方は、わが国の個人開業医の実態を踏まえているとはいえない。
なぜなら、日本の開業医の多くは大学や大病院で長らく研 を積み、技術、学識の両面で高度の専門性を修得した上で、地域医療に対する意欲と情熱を持って独立していく仕組みとなっているからである。
そして現に、歴史的にも地域医療に多大の貢献を果たしてきた。
こういった点を見過ごして医療提供体制を再構築しようとすれば、地域医療は大きく後退することとなろう。
世間が V.B.(venture business) の時代を迎えているというのに、医者だけは各々が持つ独自の技術や見識、経験を地域社会のために生かそうとすることを許されず、時代に逆行する計画経済的なビジョンに従属しなければならないのはあまりにも理不尽ではあるまいか。
それぞれの「健康管理」医が、自らの医療理念に基づいて、各々の契約世帯にふさわしい多種多様な医療行為を提供するために創意工夫を凝らせるような余地を残しておくことは、市場原理導入の基本的条件であるのみならず、地域医療の水準を向上させる
上でも大きな要因となることはあえて指摘するまでもないだろう。

「専門」医療機関

各医療機関が「専門」医療機関を選択するか否かは、当該医療機関の開設者の判断にゆだねられる。
標榜科目は、医療法第70条第l項に規定する政令(医療法施行合第5条の3)により定める診療科目についていくつ掲げても構わない。
また、学会認定医・専門医を絶対的要件とするか否かについては、本試案の趣旨として、技術評価を第―として市場原理にゆだねる上からも現時点では好ましくない。
「健康管理」医療機関が、契約を交わした世帯の世帯員全員に対して、生活の基盤となる健康や病気の管理について「お世話」を提供するという面が主となるのに対して、「専門」医療機関においては、文字通り当該医療機関の持つ「技術カ」が鍵となり、急性期医療、高度医療の主たる担い手としての役割が求められよう。
選択の判断にあたっては、「専門」医療機関が、もっぱら「健康管理」医療機関からの紹介によって医療提供の機会を与えられる、
「完全紹介制」の医療機関であるという点が医療機関の経済基盤の安定性確保の上で一考を要すところとなろう。

医療機関の情報提供

各医療機関の開設者は、「健康管理」あるいは「専門」医療機関のいずれかを選択し当該医療機関所在地の都道府県知事に届け出ることとするが、この届け出は1年をもって更新し、変更も可とする。
また、各医療機関は届出区分の事実と提供する医療行為の内容や範囲について、所属する地区医師会、都道府県医師会、日本医師会、また医療機関所在地の管轄保健所(保健センター)と区・市役所または町村役場および都道府県庁に対して情報提供を行い、国民が自由にこれらの情報を閲覧できるようにする。

保険制度

医療保険制度も医療提供体制の再構築に見合った形にする必要がある。
本試案は、現行の年金制度に倣って、二層構造の医療保険制度を提案する。
二層構造は、1階部分を「健康管理保険」(「健康管理」医療機関に対応)、2階部分を「専門医療保険」(「専門」医療機関ならびに特定機能病院、救命救急センター、地域医療支援病院に対応)とする(図2)。

2階部分の「専門医療保険」は基本的には急性期医療と高度医療に対応するものであって(例えば療養型病床群は原則として介護保険の対象とする)、従来からの国保、被用者保険に基づく保険制度に準ずることとし、将来的には保険で賄われる内容や保険料によって複数の種類の保険を用意し、国民の自由な選択にゆだねる形をとることも考えられる。
年金でいえば基礎年金に相当する2階の「健康管理保険」は、保険者を都道府県単位とし、都道府県知事が住民票上の世帯を単位として、世帯主から世帯の人頭数に応じた保険料を徴収することとし、被用者保険の場合の事業主負担や国保の場合の国や地方自治体の負担はないものとする。
そして全世帯に加入が義務づけられる。
ただし、低所得世帯については、保険料減免制度の適用や福祉の対象とし、例えば生活保護世帯については、単結または併給により保険料を充当する。
国民の「健康管理」医療機関窓口での自己負担はない。

診療報酬

診療報酬体系も医療提供体制を大きく二分するに伴い、それぞれ異なる体系とする。
「専門」医療機関の診療報酬については、基本的には、専門職群の技術料を重視した支払い体系とし、原則「出来高払い制」とする。
これに対して「健康管理」医療機関の診療報酬は、世帯・月単位のレセプト1件につき、世帯内の人頭数に応じた支払い体系とし原則「定額払い制」とする。
従って、「健康管理」医療機関と契約を交わした世帯の世帯主が支払う保険料のうち、徴収事務費などを差し引いた金額が、直接「健康管理」医療機関への診療報酬となる。
これにより各世帯は、各々の「健康管理」医療機関がその医療サービスを通じて、自分たちの支払った保険料をどのように還元してくるか見定めることが容易となる。
―方、「健康管理」医療機関としては、契約した世帯の支払った保険料を事実上預かる形となり、その総額をいかに的確に配分して、各世帯の世帯員―人ひとりにふさわしい保健や医療のサーピスを提供できるかが医業の成否を決することとなろう。



 戻る
Copyright (C) 2003 Medical Juridical Person KOUJINKAI.. All Rights Reserve