シリーズ「高脂血症」     かかりつけ医が語る       〜患者の治療意欲を高めるために〜  心筋梗塞と脳卒中は、日本人の死因の2位と3位です。 「健康長寿を目指すなら、これら血管病の予防が大切」 と話す槇殿院長は、「命の大切さ」をキーワードに高脂 血症対策に取り組んでいます。 ●健康長寿を目指すなら         血管病を防ぐことも大事● Q.槇殿院長はがんの治療が専門とお聞きしました。なぜ 高脂血症など生活習慣病の治療にも力を入れるようになっ たのでしょうか。 槇殿 現在、がんはきちんと検査を受けていれば、ほとん    ど救える病気になってきました。全がんの約半分は    胃がん、大腸がんなどの消化器がんです。これらの    消化器がんを克服できれば、がんでの死亡を半分に    減らすことができます。    人間の寿命を考えたとき、次に克服すべきものは何    かということです。日本人の死因を見ると、        1位 がん        2位 心血管障害        3位 脳卒中    です。2位と3位はほとんど動脈硬化が原因となる    血管病です。年齢別死因から分かったことですが、    ある一定以上の年齢になると死因はがんよりも心臓    や脳の血管病が増えてきます。健康長寿を目指すな    ら、がんの早期発見・治療に務め、若いときから血    管の老化を防ぐことが大切です。血管を老化から守    るということでは、高脂血症や高血圧、糖尿病とい    った生活習慣病が無視できない問題となってきたの    です。 Q.高脂血症や高血圧、糖尿病などは動脈硬化の危険因子   ですね。 槇殿 動脈硬化は10代のころから始まることが分かって    います。できれば小学生ぐらいから生活習慣病の予    防を始めた方がいいのですが、現実的にはよほどの    ことがないかぎりすぐには寿命に大きな影響を及ぼ    さないので、これまで社会的に問題視されずにきま    した。しかし、最近のように、10代からの喫煙、    アルコール摂取、薬物の濫用、過度の偏食が当然と    いった風潮が蔓延してくると、そうとも言っていら    れません。遺伝的要因や疾患骨酌歴は別にして、過    食、偏食、高塩分食、肥満、喫煙、多飲酒、運動不    足、ストレスなど、自己コントロールで正すことが    できるものについては、できるだけ若いときから取    り組むべきです。 実際、30〜40代の人でも、    すでに動脈硬化が進行している人もいます。    当院では脳ドックも実施していますが、40代から    小さな梗塞を持っている人も少なくありません。    こういう人がこれまでと同じような生活を続けてい    れば、健康長寿は期待できません。高脂血症や糖尿    病などは患者さんに治療を継続してもらうことが難    しいと言われますが、医師と患者さんとの間に基本    は「命が大切」という共通理解があれば、それほど    困難なことではないと思っています。 ●服薬を開始したら最後まで徹底的に● Q.「命が大切」というメッセージは確かに理解しやすい    ですね。具体的にどのように説明されますか。 槇殿 まず、日本の現状についてお話しします。65歳以    上の高齢者の健康状態の分布はどうなっているかと    いうと、4人に1人は何らかの介護を要する状態と    いうデータがあります。老後の生き方には3つのパ    ターンがあり、1つ目は、ピンピンして、最期はコ    ロッと逝きましょうという、いわゆる健康長寿。    2つ目は、年とともに徐々に体力や生命力が低下し    て最期を迎える。3つ目は、あるときから急に悪く    なり、最後は寝たきりになって介護が必要な状態に    なる、というパターンでて患者さんに「あなたはど    のパターンを選びますか」と聞くと、たいていは1    を希望します。その患者さんが飲酒、喫煙、肥満な    どの危険因子を持っていれば、「このまま今の生活    を続けると、健康長寿は期待できません。ただ、あ    なたが生活改善をしたいと思うならば、私は最大限    の努力をします」と伝えます。高脂血症でも糖尿病    でも、死につながる可能性のある疾患ということさ    え患者さんが理解すれば、治療意欲も服薬のコンブ    ライアンスも上がるのです。 Q.実際に、高脂血症の治療はどう進めていくのでしょう   か。 槇殿 高指血症の場合、食事が関係する部分は2〜3割で    残りは遺伝子が関係した体質的なものです。1人ひ    とりの状況によっても違いますが、まずは食事、運    動、肥満解消などの生活習慣改善から始めます。い    きなり薬を出すことはありません。しかし、日々の    努力をしても改善しないときは、スタチン系薬剤な    どによる薬物療法が不可欠になります。薬の服用が    決まったら、最後まで徹底して服薬してもらいます    。生活習慣改善で効果がないということは、体質的    な問題が大きいと思うからです。この場合も、「元    気に過ごそう、最期はコロッと」という原点がはっ    きりしていれば、患者さんも納得してくれます。長    く飲み続けることでの薬害も問題になっていますが    、定期的に検査して十分チェックすれば、副作用は    防げます。何年も飲んでいると治療意欲が低下する    こともありますが、健康長寿の話を何度も繰り返す    ことで、また服薬のコンプライアンスがよくなりま    す。 ●注意すべきはメタボリック症候群● Q.高脂血症をコントロールするための数値目標はありま   すか。 槇殿 基本的には、動脈硬化性疾患診療ガイドライン(200    2年版)に基づいています。ただ、医学には経験学も    あります。総コレステロール値が130mg/dl台を保っ    ている90代や100歳の長寿の人はたくさんいま    す。長寿の男性では不思議と酒もたばこもたしなま    ない人が多いことも実感しています。逆に言えば、    彼らはそうであるから長生きできたのだろうとも思    うわけです。個人的には、本当の長寿を目指すなら    、コレステロールは低めがいいと思っています。気    をつけなければならないのは、糖尿病や高脂血症、    高血圧などの危険因子が重なるメタボリック症候群    です。コレステロールや血糖など、個々の数値はそ    れほど高くなくても、それらの危険因子が重なるこ    とで動脈硬化に基づく疾患の危険性は非常に高くな    ります。メタボリック症候群では、肥満の解消が大    切です。当院ではダイエット教室も開催しています    。やせるだけで薬が必要でなくなることも多いので    す。 Q.最後に、読者へのメッセージをお願いします。 槇殿 高脂血症に関しては、さまざまな情報があふれでい    ます。患者さんがそれらの情報に振り回されること    も少なくありません。私たちのところにもセカンド    ・オピニオン、サード・オピニオンを求めて、たく    さんの患者さんが訪れます。その場合、患者さんが    最終的に何を求めているかというと、医師との信頼    関係です。そういう意味でも、信頼できる医師を選    ぶことが大切でしょう。 2004.4.9 週刊朝日「メディカルトーク」より