真の資格社会に向って  (2002. 4.15)                                         

 平成十四年三月二十九日の閣議において、政府は総合規制改革会議(議長 宮内義彦オリックス会長)が第一次答申として昨年暮れに提出した「重点六分野における具体的施策」を骨子とする規制改革推進三ヵ年計画の改定を決めた。
 計画は九六四項目に及び、医療、福祉、労働などの社会的分野に新たな施策が目立っている。
 医療に関連する内容は、

  @医療に関する徹底的な情報開示・公開
  AIT化の推進による医療事務の効率化と医療の標準化・質の向上
  B保険者の本来機能の発揮
  C診療報酬体系の見直し
  D医療分野における経営の近代化・効率化
  Eその他

の六項目に大別され、個別に細ごまとした内容が二十三項目にも及び、その殆どが平成十四年度中に検討、措置または実施となっている。
 個別項目をもとに改革計画の全体像を描いてみると、そこに見えてくる医療は、米国を発祥とするファーストフード方式を彷彿させるものである。
 お客からすれば、多少不味くても安くて早く食べられ、そこそこに満足が得られ、経営者側からすれば、資本投下の圧縮や流通効率向上によるコスト抑制と、マニュアル化に伴う専門職排除と人件費抑制による経営効率向上への期待といった相関図である。
 つまり、お客も、経営者も、互いに感情の伴う人間関係を排して、病気という商品だけを介したドライなビジネスが良いと言う訳だ。
 トラブルを生じた時も、手引き書どおりに事を運ぶことで、対応する側も、される側も出来るだけ感情移入のない関係を維持しつつ解決をはかることになる。
 いわゆる人間ロボット化で成り立つビジネスの流れが、医療に導入されようとしている。
 規制改革が掲げる医療効率の向上は医療全般からみると確実に質の低下を引き起す。
 三ヵ年計画に示された医療関連項目について医療側からコメントするとすれば、@保健や医療に関る行為を市場の商品と同じに考えている(傷病治療の商品化)、A傷病に対する医療行為の結末を均一に評価しようとしている(購買者側が商品の管理精度を左右するという矛盾の存在)、B医業が高技能労働力集約型産業である事を認めない(人件費削減による経営効率の向上と商品の品質向上は両立しない)、C医療従事者の評価基準を十分に理解していない(医心、医学、医術の均衡度の重要性)、D医業経営者の経営能力を過小評価している(医療経営者は他業種の経営者より一般的には能力的に優れている)、EIT化が医療の質向上につながると考えている(EBMや電子レセプトに反映されない医療の実情を知らない)、F医療の均一化が質の向上やコスト削減につながると考えている(電子レセプトやカルテを用いた医療の平均化は質の低下と重症者の増加を誘導する)、G電子レセプトが保険者負担を軽減すると考えている(事務経費を別にすれば電子的レセプトチェックの手法は、いずれ請求側も審査側も同じになる)、H保険者と医療機関の直接的タイアップが医療費削減に繋がると考えている(皆保険制度の一部崩壊は医療費の高額と低額の二分極化を促す)、I広告規制の緩和による競合が医療の質向上につながると考えている(今以上の競合は医療供給上の不均衡を生じるだけである)、J理事長要件の見直しが医療への民間参入を促すと考えている(不採算医療の切り捨てと施設間較差を増すだけである)、K医療を健康者の理論でとらえ過ぎている(救急医療などの体制整備は医療の極一部に過ぎない)L医療をゾーン‐ディフェンスの一本に絞ろうとしている(医療の原点であるマンツーマン‐ディフェンスは医療の質とフリーアクセスの維持につながる)、M医育教育と、他の教育の根本的な違いに気付いていない(机上の学問以上に経験の伝聞が重要である)、N医療に関る人材派遣の危険性に気付いていない(人材評価の誤りに伴うリスクの増大)等々、医療の実体と掛け離れた深慮遠謀の無い内容が目に付く。主に経済学者や財界人を民間代表とした会議の顛末が如実に現れている。
 いずれにせよ、今後のわが国の医療は、この三ヵ年計画に基づき進められる。政治的に修正できない以上、この方向性をただ見守るしかない。
 例え、国民に不利益を生じるようなことがあろうとも、国民の選んだ代表が決した施策である以上、受容し、協力を惜しんではならない。
 ただし、国民が医療の実態を知らないがゆえに蒙る重大な不利益に対しては、医療関係者が一丸となって、万難を排し修正に取組まなければならない。
 そういった万が一の時のためにも、我々医師は日頃から強固な団結を確認しておかなければならない。
 医師会の存在は今後ますます重要になってくる。
 医師会への参加も、これからは任意から強制へと転換し、法制化を視野においた組織の再整備なども今後検討する必要があるのではなかろうか。

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