人類の行方  (2001.10. 5)                                                

・米国中枢同時テロ事件―とある酒場で、数人がグラス片手に仕事のあとの一時を楽しんでいた、その時のことである。
 いつも冷静沈着で通っているN氏が、「テレビ、テレビ」と声を荒げて店に飛び込んできた。
 一瞬、何事かと皆は驚いたが、次の瞬間、店のテレビに映し出された画面を見て、瞬時に一同は事の重大さを呑込んだ。
 そこには、高層ビルめがけて突っ込む旅客機と、火を吹く建物が映し出されていた。
 全員、固唾を呑んでテレビ報道に見入っている内に、このビルがニューヨークの世界貿易センタービルであること、ワシントンDCの国防総省にも旅客機が突っ込んだこと、また、これ等の旅客機を含めた数機がハイジャックされたことを知った。
その後のことは既に諸氏もご存知の通りである。

・国民医療の行方―小泉首相の聖域なき構造改革の流れを受けて、経済財政諮問会議は「骨太の方針」を作成した。
 その中に医療サービス効率化プログラムを示し、総合規制改革会議は、これを受けて医療分野における重点六分野の基本方針を打ち出した。
 この流れは、昭和三十六年以降、綿々と続き、維持され、今や世界に冠たる制度にまで育った国民皆保険制度と、それに基づく現物給付方式、或いはフリーアクセスを潰しかねない。
 米国に追従する医療制度の模倣を含め、医療の中身を知らない人々、特に経済学者や財界人が主となり日本の医療の新たな制度を決めようとしている。
 わが国の歴史や文化、風土といった日本固有の東洋的な心を欠き、生命よりも経済を先行させるドライな米国的手法の導入に誰が気付き、戒めるのであろうか。
 昔はさて置き、今や悪代官の極みとも言える官僚制度と、それに付随する特殊法人問題は、国民の誰もが是正すべきと考えているが、その事と国民の生命に関する医療を一緒にして、同じ土俵で、しかも経済の視点で論じようとするのは余りにも無茶な話である。
 今後の改革論議において、小泉人気を背景に力の論理で医療改革を推し進めれば、現内閣も、これを支持した国民も、いずれ取り返しのつかない反省を迫られる時が来るだろう。

・ガイア仮説―英国の天文学者ジェームス・ラブロックと米国の微生物学者リーン・マーグリスが、六〇年後半に提唱した仮説に端を発し、生命圏と大気環境との関係をもとに地球の未来を論ずる時よく引き合いに出される。
 つまり、全ての生命や元素が何らかの繋がりをもって存在し、地球そのものが大きな生命体であるという考え方である。
 だからこそ、そこに気付き本当に大切なもの、大切なことに焦点を合わせれば、自ずから人間の行動する方向性も定まり、先が見えてくるという哲学的で、倫理的な側面を秘めている。
 しかし、平和への願いも、医療の実践も、また喫煙者に嫌われながら禁煙を勧める活動も、全ては同朋の生命に対する愛であり、正にこの理論に通じるものである。

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