個人情報保護法見直しは喫緊の課題 (2001. 5.15)                                

 政府は平成十三年三月二十七日の閣議で、「個人情報の保護に関する法律案」を今の第百五十一回通常国会に提出することを決定した。
 数年前から個人情報保護基本法の法制化に向って、国は高度情報通信社会推進本部の下に個人情報保護検討部会や個人情報保護法制化専門委員会を設け、与党、関連省庁、関係団体等のヒアリングや意見を通して、その大略を取り纏めてきた。
 高度情報通信社会の進展に伴い、今後いっそう拡大が予測される個人情報の利用に、情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務を定め、個人の権利や利益が損なわれないようにしようとする法案である。
 この法律に違反した者は、罰則として六ヶ月以下の懲役、又は三十万円以下の罰金、あるいは十万円以下の過料が課せられる。
 この法案に医療や医学の分野に係る具体的記述はないものの、係りを持つと予測される事項は、ほぼ全条項に及んでいる。
 それは第二条(定義)から第六条(正確性の確保)、そして第七条(安全性の確保)、第八条(透明性の確保)、第九〜十九条(国及び地方公共団体の責務および個人情報の保護に関する基本方針)、第二十〜五十四条(個人情報取扱事業者の義務等)、第五十五〜六十条(適用除外を含む雑則)、第六十一〜六十四条(罰則)である。
 辛うじて雑則第五十五条で、医学研究に係わる大学や医学研究機関が適用除外とされ、総則第二条で、国公立の医療機関と独立行政法人が個人情報取扱事業者を免れている。
 しかしながら、患者毎に検索が可能なレセコンやパソコンを所有している大方の一般病院と診療所は、須く個人情報取扱事業者として本法の適用を受ける。
 その適用は、時に、当該法の趣旨とは掛け離れた目的をもって執行される事態も想定される。
 患者や行政側からの閲覧や更正、あるいは安全性等の管理に関連する請求や要請を通して、無用な争いが診療現場に持ち込まれかねない。
 医師と患者の間に、国や地方の更なる規制や、患者縁者の新たな権利を持ち込むことにもなりかねず、国民医療において幾ばくもプラスになる要因は無い。
 日医医事法関係検討委員会(委員長長田昭夫鳥取県医師会長)は三月の中間報告「個人情報保護基本法制に関する大綱」についての意見の中で、この点を指摘し、医療機関を義務規定から除外するよう強く求めた。
 にも拘らず平成十三年三月三十日の日本医師会ファックスニュースは、「医学研究は個人情報保護法の適用除外」という見出しで、この保護法案に触れ、「認定個人情報保護団体は、個人情報取扱事業者が行う個人情報の適正な取り扱いや苦情処理などを担当する。
  このため病院・診療所が個人情報取扱事業者だとすれば、認定個人情報保護団体は、医師会や病院団体などが・・・(中略)・・・今後は個人情報保護指針などの策定に向けた検討を行う。」と報じ、その後、四月二十七日付けの同ニュースでは、「個人情報開示の制限規定は日医の主張に適う、あるいは日医の基本姿勢と不整合をきたすものではない、さらには日医の主張がまず通ったと考えている」と報じた。
 中間報告の基本的主張の真意は何時の間にか葬り去られ、原案通りに法案を承認し、医療情報が一般情報として取扱われることを容認したものとも解される。
 今国会は自民党総裁選のため、事実上、休会状態に陥り、本法案を含め残り六十八本もの未決法案を抱えたまま、六月二十九日の閉会まで僅かの会期を残すのみとなった。
 当該重要法案は現在、衆議院議員運営委員会への付託が検討されている。
 医療情報が非営利情報である事、また外部と接続されていないコンピューターを置いている医療機関まで個人情報取扱事業者に組み入れる必要性がない事、医療情報の取扱いにおいて医療機関を国公立と民間に分けて規制する必要性がない事を理由に、当該保護法第二条(定義)において国公立医療機関と横並びに、全医療機関を適用除外とすることを主張したい。
 解釈論争や個別法の制定といった姑息的な対応姿勢は断固としてとってはならない。
 根本的な是正こそが先々に禍根を残さない解決策である。当該保護法が、ひとたび原案の侭に法制化されれば、身体に関わる医療情報は、以後、他の一般情報と同じ範疇の中で取扱われることになり、改正は尚さら難しくなる。また何れ医療関連情報が主務官庁の統制の下に管理されることも想像に難くない。究極の個人情報である国民一人一人の身体情報の保護と、円滑な医療の実践のために、本法案の修正を喫緊の課題と位置付け、見直しに向って限りを尽くす姿勢が求められる。

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