医療の情報化  (2000.11.20)                                              

 小渕前首相の後を受けて発足した森内閣も第一次、第二次と組閣を終え、早や六ヶ月が経過した。
 発足当初の内閣支持率は二七%、不支持率も六二%と過去最高であった。
 また新内閣に期待する政策では、景気対策、雇用確保、社会保障の充実に要望が集中。
 この難局を乗り切るには、首相自らが目に見える形の指導力を発揮し、評価できる政策を国民に示すより他はなく、そこで打ち出されたのが日本新生プランである。
 情報技術(IT)を柱に政策全般に「日本新生特別枠」と銘打った予算を計上、経済発展の起爆剤にしようとするもくろみだ。
 この背景のもとに、平成十三年度厚生労働省概算要求および平成十二年度厚生省補正予算が検討され、IT関連として概算要求で五〇億円弱、補正予算で四六〇億円弱が計上された。
 第三者の入りこむ余地の無い、医師、患者間の診療情報に、ITが一体何をもたらすのだろうか。
 そもそも医療には、医師の守秘義務と患者情報の保護が含まれており、外との情報化は難しい側面を有しているが、医療全体における量的、質的確保の面では、効率や情報管理を介し寄与することも想像に難くない。
 あるいは医師の医学的知識や技術の情報収集にも有用となろう。
 唯、すでに医師が診療情報を完全な形で整理、保存し、日々の診療を確実にこなしているとすれば、ITは不要である。 国が、本来、個人のプライバシーに関わる診療情報に政策的に係わろうとすることは、漏洩阻止や、正確性確保の問題を別にしても無理がある。
 仮に学問的進歩に情報化が不可欠だとしても、それは医師が、高い見識と倫理的な判断をもって行うべき領域である。 何か面白そうで、何かに使えそうな技術だから医療にもでは、全幅の信頼をもって医師を受診した患者に対し、礼を失することにもなりかねない。
 医療の原点を見失わず、また国の政策にも左右されない所で、医療の量や質の確保につながるIT活用の筋道を立てておくことが急務であろう。
 急いては事を仕損じるの喩えもあり取り返しのつかない事態だけは避けたいものだ。

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