公的介護保険スタート  (2000. 4. 5)  
                                        
 これからの高齢社会に向け、介護が必要なお年寄りを社会全体で支えていこうとする公的社会保険制度―介護保険が紆余曲折の末、この四月一日にスタートした。
 介護を要する高齢者がこの制度を利用するには、まず保険者である市町村の窓口で申請し、一ヶ月あたりに利用できる費用枠を決めてもらうことから始まる。
 申請に基づき、介護認定審査会では、市町村職員や介護支援専門員(ケアマネージャー)が予め聞き取りした項目から作成されたコンピュータ判定資料と、主治医が提出した意見書を基に、要支援、要介護(T〜X)の六段階のいずれかを認定する。
 この認定された費用枠をもとに介護サービス計画が策定され、一四の在宅サービス(訪問介護、訪問入浴、訪問看護、訪問リハビリテーション、短期入所生活介護、短期入所療養介護、痴呆疾患対応型共同生活介護、特定施設入所者生活介護、福祉用具貸与、居宅介護福祉用具購入費支給、居宅介護住宅改修費支給)と、三つの施設サービス(指定介護老人福祉施設、指定介護老人保健施設、指定介護療養型医療施設)が本人負担1割で利用できる。
 平成一二年度で約二八〇万人、二五年後には五二〇万人に達すると予測されている要介護高齢者とその家族にとって、この保険制度は頼もしくもあり、先行きに期待も大きい。
 しかし、費用を負担する国、都道府県、市町村の歳出額と、被保険者から徴収される保険料からなる費用総額の少なさには拭い去れない一抹の不安が残る。
 平成一二年度の概算要求で示された財源は約四兆三千億円であり、単純にそれを推定される要介護者数二八〇万人で割ると、要介護者一人あたりの費用は月額一三万円弱である。
 介護認定のランク差を考慮しても少なすぎる。この財源を当てにして、サービス水準の向上を目的に参入が認められた民間業者が、その意図する営利目的と良質なサービス提供の無矛盾性をどのように解決ふるのだろうか。
 制限のある少ない費用と労働集約型産業のなかで生き残り、安価でより良いサービス提供を続けようとすれば、人材の質と人件費の均衡のなかで採算を検討せざるを得なくなる。
 つまり、安い人件費で、優秀な人材を常時確保できる業者が利益を出せるのである。
 この厳しい条件の中で競争し、良質で、公平なサービス提供を続けることのできる事業者の出現を是非とも期待したいものだ。
 はたして福祉奉仕者を主とする小事業者と、スケールメリットを活かした大事業者のいずれが生き残るのか、この制度存続の将来を予測する上で興味深い。
 介護保険は医療、年金、雇用、労災に次ぐ五番目の公的社会保険制度である。医師会も全面、この制度の安定運用に支援、協力し、将来の高齢社会における介護問題に立ち向かっている。
 この制度では、すでに介護認定、介護サービス計画(ケアプラン)作成、居宅療養管理指導、通所介護(デイサービス)、通所リハビリテーション(デイケア)、短期入所療養介護(医療施設へのショートステイ)、介護老人福祉施設(特養)、介護老人保健施設(老健)、介護療養型医療施設(療養型病床群、老人性痴呆疾患療養病棟、介護力強化病院)等に多くの医師が連日精力的に加わり、係わりを持っている。
 この制度において問題となっている財源の分配についても、参入した民間サービス事業者の動向に目を光らせ、医療抜きでは成り立たない介護保険制度の将来的安定と、高齢者への良質なサービス提供の継続に向かって努力している。
 我々医師は、生命の危急からの救い、あるいは生命の繁栄といった、本来の福祉の考え方から外れることなく、この制度の存続に寄与する立場を今後とも堅持するべきであろう。

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