公人の公人たる所以 (1999. 2.20)                                           

 国または国家は、その時代を生きる人々のために存在する。
 その人々が願うことは、みずからが満足できる生涯を生ある限り健康に過ごすことである。
 この願いをかなえる環境を整備し、支援することが国家の果たすべき最大の役割だ。
 それは、衣食住といった「今」を生きる人々への生活関連対策から社会保険、公的扶助、社会福祉、医療といった社会保障であり、さらには外交、文化、教育といった「今」のために必要とされる過去と未来への投資や、「今」と未来への蓄えである。
 わが国が「今」どのような国家を将来的に目指しているのか、その方向性を見いだせない。
 その理由はいろいろあるが、一番は政治リーダーの正当性の欠如と、結果として生じた利益政治の日常化である。
 腐敗した政治は貧困な政策立案に繋がり、小視野的、短期的な政策論争に終始する。
 真に求められる政策は、他国の模倣では得られない。
 その国の、その時代を生きる人々に最も適した策は、その時代を生きる人々の公平で私意のない議論から独自に生まれるものである。
 だからこそ、公明に議論できる場が必要だ。
 少数の意見をあたかも大勢の意見のように見せかけ、世論を操作する「今」の政策過程は決してあってはならない姿である。
 日々多くの人に接し、人をより人間的に観察し、人間らしさを追及しているわれわれ医師は、人を集団として捉え、その原点から「今」を観る。
 それは、人が「今」と未来を生きるうえで、望ましい環境の整備と将来的展望への思考でもある。
 医療から社会保障へ、社会保障から政治へと視野を広げることに何ら不条理はなく、むしろ職業的宿命である。
 貧相な政治文化の改善に努力し、「今」を生きる人々のために幅広く政策を質し、真に求められる政策を提言することは医師としての責務でもある。

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